里帰り分娩

実家でお産するのを里帰り分娩といいます。
私が以前に勤務していた雄勝中央病院では、里帰りで他の地方に行く人は少なく、都会などから当地に里帰りをしてくる人が圧倒的でした。

私は里帰り分娩が嫌いです。
何で最愛の夫とわかれてお産をする必要があるのでしょうか。
まずは夫の傍でお産できるように試みるべきです。
それでも駄目なら里帰りも止むをえないでしょうが。

私の経験では、単に<初子>だからという理由で里帰りしたり、あるいは里帰りするのが当然だと思って、何の疑問や努力もせずに里帰りしてくる人が圧倒的でした。
理由があってやむを得ずに里帰りする人は少数派です。

私が「なぜ里帰りしてきたんですか」と尋ねても、たいていの場合は何を聞かれているのかわからず、逆に「何でそんな事を聞くのか」と言われます(今風にいえば逆ギレされる)。

医学的には里帰りは合併症が多いという意見もありますし、あまり変わらないという意見もあるようです。
しかし、私は医学的な意味で反対しているのではありません。
しばらくの間、妻と夫が離れてしまうという事が、妻や夫に、さらに生まれてくる赤ちゃんに何かの悪影響を与えることがあるのではないかと心配しているから反対するのです。

結婚したら、相手が単身赴任で一緒に住めないとしたら嫌でしょう?
できる限り、夫婦で一緒に、生活を築いていったほうが素敵でしょう?
夫婦における色々なトラブルや苦労は二人で立ち向かいましょう。

今よく話題になるように、小学生や中学生が凶悪犯罪をおこしたときにどう考えますか?
多くの人は両親の教育が悪いと思うようです。
片親であるなどと報道されると、「やっぱりな」とうなずいたり、夫があまり家に帰ってこなかったり妻に協力的でなかったりと報道されると、「やっぱり」と思ったりします。
それは皆さんが夫婦が協力して家庭を築くものであると感覚的に知っているからです。
赤ちゃんを育てる事には、両親の協力が必要なのです。
それなのに里帰りしてしまえば、夫の協力ができない状況にしてしまいます。

夫も里帰りに賛成であるという人もいます。
おそらく夫はしぶしぶ我慢をしているんだと、私は思います。分娩はお里でするものだという考えが男性にも身にしみこんでいて、妻のため、生まれてくる子供のために妻が里帰りするのをしぶしぶ耐えて我慢しているのだと思います。

私の今までの印象では、地方に里帰りしてしまう妊婦が多い都会の産婦人科医師は、里帰りについては何の指導もしていないようです。
里帰りをしないですむ方法を、妊婦さんと一緒に考えてくれないようです。
もしかしたら妊婦さんのほうで「里帰りします。もう決めました」などと言ってしまうと、医師の方にも指導するパワ−が無くなってしまうのかもしれませんね。

「お産が不安だから里帰りをするんだ。実家のほうが気楽である」と堂々と言う人もいます。
でも、お産の何が、どこが不安なのかを突き詰めて聞いても、大抵は答えてくれません。じっくり考えてみると、たいした事ではないのに、あまり理由無く不安がっているのです。

実家のほうが気楽と考えるのは論外でしょう。そんな人は、もともと結婚できるような精神的自立ができている人じゃないんですね。

不安だ不安だといっても、手術だって不安だろうに・・・・でも里帰り手術というのは殆んどありません。私(秋山)の今までの経験でも、せいぜい独身の学生さんくらいでした。

生まれてくる赤ちゃんの育児が不安であるという人もいます。育児は生後一ヶ月くらいはあまり問題ありません。赤ちゃんが成長するにつれて次第に問題が色々発生します。熱をだした、痙攣した、変なものを食べたなどなど、きりがありません。昔から言うように三歳までは大変です。
里帰り分娩は普通は分娩後一ヶ月程度で元の住居にもどってしまいます。
皮肉な言い方ですが、育児が本当に不安であれば、数年間は里帰りしている必要がある位ですよ。

よく考えもせずに里帰り分娩をしてしまうと、せっかくのすばらしい生命の誕生の瞬間を、夫とともに共有できず、もったいないですねえ。
そんなに多くの子供さんをお産するわけじゃないですので。チャンスは少ないんです。

やむをえずに里帰り分娩をする人でもっとも多い理由が、上の子の面倒を見てくれる人がいないという事です。お産をする時に、一家全員がお産する病院に一時的に引っ越せるような分娩施設は、まだ日本では少ないと聞きます。

当クリニックでは残念ながらお産をとりあつかう入院施設がなく、妊婦健診のみを行っております。
ですが里帰りする人への相談は、当クリニックではいつでも引き受けています。